残 っ て い る も の 、 残 さ れ た も の 。
「 記 録 」 「 記 憶 」
V T R や 写 真 、 そ し て 日 記 。
人 の 心 に あ る 思 い 出 。
【1話】
「カエデちゃーーーん!」
そう叫ぶのは戸川瑞穂、24歳。
彼女は天真爛漫な性格で
誰からも好かれていた。
「昨日、あそこの店オープンしたから行こうよ!」
笑顔いっぱいのミズホ。
「いいね!今日の夜空いてるし、さっそく行かない?」
ウキウキで返事をするカエデ。
2人が向かった先は
オクトプロダクションから
約20分ほど離れた場所にある
小さなカフェだった。
この店の売りは『クレープ』だった。
「うわぁ~美味しそう!」
ミズホもカエデもどれを注文するか
迷ってしまうほどだった。
「決ぃーーーまったぁーーー」
「うん、私も決まったぁ~」
クレープを注文して
先に来たミルクティーを飲みながら
カエデが言った。
「ミズホちゃん!私さ、ミズホちゃんと同期で良かった!」
いきなりの一言にミズホはビックリしたが
嬉しい言葉を言われて思わず微笑んだ。
「私もだよ~。カエデちゃんがいたからこそ頑張れてるし」
「ところでさ・・・最近どう?」
カエデが続けた。
「どうって何が?」
ミズホが答える。
「恋だよ!」
・・・
苦笑いのミズホ。
「ん~、今は恋愛はしてないかな?」
1年ほど前にマサキと別れたミズホは
特に好きだと思える人はいなかった。
「カエデちゃんは木村さんと上手く行ってる?」
「うん、たまにはケンカするけどね」
カエデの恋人は5歳年上のカメラマン。
ミズホも知っている人だった。
「すっごい私をガキ扱いするからさ~」
「休みの日はゴロゴロしてて邪魔だしぃ~」
「服も脱いだら脱ぎっぱなしでさ」
文句を言いつつも幸せそうに話すカエデだった。
楽しい時間もあっと言う間に過ぎ
気付いたときには2時間以上も店にいた。
「そろそろ行こっか」
そう言って、2人は店を出た。
「ミズホちゃん、オクティー楽しみだね!」
帰り際にカエデが言った。
オクティーとはオクトプロダクションが
開催している年に1回のファッションステージ。
要するにオクトプロダクションに
在籍しているモデル達の祭典である。
「うん、来週だもんね!楽しみだよ!」
【2話】
今日はオクティーの日。
オクトプロダクションが毎年春に開催する
モデル達の祭典なのだ。
「カエデちゃーーーん」
控室に先に到着したのはミズホだった。
ミズホの到着から遅れること数分
カエデが到着した。
「どんなドレスにしたぁ?」
ミズホの問いにカエデは答える。
「今年は青のドレスにするよ!ミズホちゃんは?」
ミズホのお気に入りはピンク。
淡いピンクにスパンコールが付いている。
お気に入りのドレスに着替え
ステージの開幕を待つ。
今日はモデル一人一人が主役となる日。
ウォーキングやポージングは自由で
自分なりの表現で楽しめる。
「いつも雑誌とか広告ばかりだったから・・・」
「こうやって年に一度でもカエデちゃんと
ステージに立てるの、ものすごく嬉しいんだ」
やっぱり目標はバノベン。
でも・・・バノベンの出場は難しい。
オーディションの壁は高く、簡単には出場が出来ない。
「いつかバノベンにも一緒に出れるといいな!」
ミズホは言った。
「うん、一緒に出れるといいね!」
カエデも言った。
2人の気持ちは同じだった。
「お疲れさまでしたぁーーーー」
オクティーのステージが終わり
スタッフたちに挨拶。
そして再び控室に戻ってきた。
「終わったぁ~」
「と言うよりも・・・終わっちゃった・・・」
ミズホの言葉に続いてカエデが言った。
「ねぇ、記念に写真撮ろっっっ♪」
身を寄せ、カエデがデジカメを握る。
そして掛け声と共にシャッターが押された。
パシャ!!!
「明日、プリントして持ってくるね」
【3話】
「ほんと??やったぁーーーーーーーー!!!」
ミズホの声が事務所に響いた。
「おめでとう、ミズホくん!」
柊さんの手にはミズホが表紙を飾った
1冊の雑誌が握られていた。
「うわぁ~嬉しいっ!嬉しいよぉ~」
嬉しさを抑えられないミズホ。
「はいっ」と柊さんから手渡された雑誌。
両手で受け取り、雑誌を上に掲げて
興奮していた。
「嬉しくて涙出てきたぁーーーー」
そしてミズホは笑いながら泣いた。
撮影から戻ってきたカエデ。
「やったね!表紙、おめでとう!!!」
「たまには行く?」
撮影の時間が迫り柊さんとスタジオへ。
事務所を出るときにミズホはカエデに声を掛けた。
「午後8時に待ち合わせね~じゃあ、また後で♪」
フレンチレストランで待ち合わせ。
念願のミズホの表紙に2人は乾杯をした。
えっ?
あれ?一之瀬さんじゃ・・・。
「どうした?ミズホちゃん」
「あの奥に・・・一之瀬さん」
「一之瀬さんって面白そうな人だよね?」
そうカエデが言った。
「うん、面白い人だよ。でも隣にいる人、彼女かな?」
「彼女じゃない?お似合いだね、あの二人」
「あのね・・・不思議なんだ・・・」
ミズホが続ける。
「昔ね、小さいころに私、一之瀬さんに会ってるんだ」
過去に出会っていること
一之瀬さんのこと
ミズホはカエデに話した。
「へぇ~、偶然ってあるんだね!」
「運命の人だったりして(笑)」
「ちょっと~何言ってんの~」
茶化されると、なんだか恥ずかしがるミズホ。
「ねぇねぇ、カエデちゃん!」
「私ね、なんか一之瀬さんと一緒にいる人・・・」
「どっかで見たことあるような感じ」
「えっ?あの人、私は知らないけど・・・」
「スタイルからしてモデルさんっぽいよね?」
どっかで見たことあるんだけど・・・
思い出せない・・・。
【4話】
うそっ?
うそでしょ???
カエデの耳に入ったのは
ミズホが入院してから翌日のことだった。
柊さんから聞いた言葉。
「ミズホくんが交通事故にあった・・・」
言葉を詰まらせ
涙を抑えながら話す柊さんも
かなり動揺した様子だった。
ミズホの緊急手術が行われ
入院してから1週間後
柊さんと一緒に病院へ向かった。
柊さんの運転する車の中で
更に信じがたい言葉を耳にした。
「意識がない・・・」
カエデの鼓動が早くなった。
ビックリしたのと信じられないのと
何がなんだか分からない気持ちになっていた。
ミズホちゃん、絶対に死なないで!
そう願いながら病院へ到着した。
『戸川瑞穂』と書かれた個室。
病室に入るのをためらった。
なんだか怖い気がした。
ベッドに横たわるミズホ。
鼻からチューブを入れられ
細い腕には点滴が刺さっている。
意識はなく顔色も悪い。
心電図の音が不安をあおる。
カエデは涙を抑えることが出来なかった。
ミズホちゃん・・・
お願い、もう一度笑って。
ミズホちゃんの眩しい笑顔を見せてよ。
家に戻ったカエデは
オクティーで撮った2人の写真を眺め
写真に向かってつぶやいた。
ミズホちゃんなら絶対に復活する。
また一緒のステージに立とうね。
約束だよ。
私は・・・信じてるから。
絶対に、絶対に助かるよね、神様・・・。
【5話】
ミズホくん・・・
家族のようなミズホくんが何故・・・
何故、事故に遭わなければいけないんだ。
わたくしは気が動転していました。
知らせを受けたのは
ミズホくんが交通事故を起こした日の
10時を回ったところでした。
「柊さ~ん、お電話です!」
事務所に掛かってきた1本の電話。
ミズホくんのお母様からでした。
10時に来るはずのミズホくんが来ていない。
どうしたんだろうか?
そんなときの電話でした。
「もしもし、お電話代わりました。柊でございます。」
電話に出ると、泣きじゃくるお母様が
必死になって伝えようとしていました。
「ミ、ミ、ミズホが・・・こ、交通・・・事故に・・・」
一瞬でいたたまれない気持ちになりました。
搬送先の病院を聞き、すぐに駆けつけると
ミズホくんのご両親が手術室の前にいました。
一刻を争う事態に緊迫した空気が流れていました。
手術中の赤い文字。
わたくしは祈りながら眺めていたんです。
何時間経ったかは覚えていません。
一瞬にして手術中のランプが消え
主治医様が手術室から出てきました。
「先生、ミズホは・・・ミズホは無事ですか?」
ミズホくんのお母様が
先生にすがりながら聞いていたのが
脳裏に焼き付いています。
そして先生からは
「手術は無事に終わりました」
と告げられ、ほっとしたのも
つかの間・・・
「・・・が、意識がない状態です」
「この先、意識が戻らない場合も考えられます」
「・・・ので、覚悟しておいてください」
言葉が凶器になると言うことは
このことでしょうか?
わたしくの心に突き刺さりました。
ミズホくん、絶対に諦めちゃいけないよ。
絶対にだよ・・・。
【6話】
目が覚めたら目の前には柊さんがいた。
状況が分からずに周りを見渡すと
ここは病院。
私は交通事故にあったみたい。
記憶をたどってみた。
思い出せることは一つ。
あの雨の日。
最後に聞いたのは車のクラクション。
思い出した瞬間、少し頭が痛くなった。
そして今でも残る、恐怖感・・・。
そっか、あのとき私は事故にあったんだ。
えっ?
でも・・・今なんで10月?
3か月も意識がなかったなんて
自分でも信じられなかった。
私、ずっと夢を見てたんだ・・・
目の前にはきれいなお花畑が広がっていた。
お花畑に入って、お花で髪飾りを作ってたの。
作り終わった髪飾りを
「とってもお似合いだよ」って言って
隣にいる小さな女の子の
頭に乗せたんだ。
そしたら、その子
「ありがとう、ママ」って言うの。
小さな笑顔に吸い込まれるような感覚で
その子を抱きしめたのは覚えている。
その時、柊さんが口を開いた。
「ミズホくん・・・」
うそっ?えっ?うそでしょ???
『契約解除』の言葉に頭が真っ白になった。
現実をすぐには受け入れられなかった。
そして柊さんから1通の手紙を受け取った。
「あっ!」
そこには「ミズホちゃんへ」と書かれた
カエデちゃんからの手紙が。
薄ピンクの封筒に入れられた手紙。
沢山の励ましの言葉と
最後に力強く
「もう一度ミズホちゃんと一緒にステージに立ちたい」
と書かれた言葉に胸を打たれた。
でも私・・・
モデルには戻れないかもしれない・・・
【7話】
どれほど泣いただろうか?
順調とも思えるモデル人生は
一瞬で変わってしまった。
あの日に戻れるなら・・・。
叶わぬ思いに悔み、そして絶望感と戦った。
時には生きていることさえ嫌になった。
そんなときはカエデちゃんから貰った手紙と
オクティーで撮った2人の写真に
いつも勇気づけられていたんだ。
でもね、もう一つ勇気づけられたことがあったの。
退院してから一之瀬さんに会ったんだ。
その時に言われた言葉が心に残ってる。
「ミズホちゃん、退院おめでとう」
「ミズホちゃんの笑顔はみんなを幸せにするから」
一之瀬さんって大げさだなぁ~なんて思ったけど
その一言で、絶望的だった気持ちが
ひとつ残らずに消えたんだよね。
安心感って言うのかな?
なんだかホッとしたような
心が温かくなった感じ。
一之瀬さんが次の仕事まで時間があったから
少し話してたんだ。
話せば話すほど、頑張ろうって思う気持ちが
強くなっていった。
柊さんから交通事故にあったことを
聞いたらしいの。
「お見舞いに行けなくてごめんね」って言われて
「いやいや、いいんですよ~」って言ったけど
実際来られてたら、あんな姿を見せるなんて
想像しただけでも恥ずかしいもんね。
「あれ?一之瀬さん、セカンドバックにお守り・・・」
サクラ神社のお守りが付いていた。
「もしかして、私が助かるの祈ってくれたんですか?」
「そ、そう、だよ!」
なわけないか・・・。
「なーんて、そんなわけないですよね(笑)あはは~」
一之瀬さん焦っちゃって(笑)
違くても、そうだって言ってくれる一之瀬さんは
本当に優しい人なんだね。
私、頑張るね!!!
【8話】
リハビリ中に毎日欠かさずにおこなってたもの。
それは・・・
鏡の前でのポーズィング。
いつかモデルの仕事に復帰するまで
もう一度ステージに立てる日が来るまで
その時まで、モデルとしての誇りを
絶対に忘れないんだ。
プルルル・・・
「誰から電話だろう?」
携帯電話が鳴り、着信画面には
一之瀬さんの名前が出ていた。
「はい、ミズホです」
「あっ、ミズホちゃん!あのさ・・・」
休業中に洋服のデザインを
なにげなくやっていたこと
柊さんから聞いたんだって。
それで一之瀬さんがプロデュースしてくれるって。
可能性を掛けてみたんだ。
売れるか売れないかじゃなく
最高のものを作れるかを。
「一之瀬さん、お願いしますね!」
いろんな商品を企画し
デザインはもちろん素材や着心地など
さまざまなものに、こだわったんだ。
一之瀬さんが声を掛けてくれなかったら
きっと、成功してなかっただろうな・・・。
だからね、一之瀬さんにはお礼に
デザインしたパーカーをプレゼントすることにしたの。
このパーカーのデザインは
丸3日も掛かった。
色々と悩んだよ。
色は最初から黒って決めてたの。
黒のイメージがぴったりだったから。
私ね、昔からプレゼントを包むのが
好きだったんだ。
小さいころに新聞紙で家にあるものを
包んで遊んでたの。
今回もパーカーをピンクの包装紙で包んで
赤のリボンで巻いてみた。
ちょっと大きなプレゼントに
一之瀬さんはビックリしてたけど
中身見て、ものすごく喜んでくれたよ。
喜んでくれる顔を見ると
やっぱり嬉しいもんだね。
【9話】
どっちにしようかなぁ?
ピンクの浴衣か水色の浴衣かで迷ってた。
今日は一之瀬さんと夏祭りに行くの。
すっごく楽しみにしてたんだぁ~。
夏祭りなんて久々だし
小さいころの記憶が蘇ってくるよ。
昔は幼馴染のハルちゃんと
亡き愛犬モコと一緒に
祭りを楽しんでたっけ・・・。
何年ぶりだろう?
ピンクの浴衣に決定!
さっそく着替えて身だしなみチェック。
よーし、完璧だぁ。
あっ、そろそろ行かなくっちゃ。
サクラ公園の入り口に到着。
一之瀬さんいるかな?
周りを見渡したけど一之瀬さんの姿は無かった。
遠くから背の高い男性が歩いてきた。
あれ?一之瀬さんかな?
違う人かな?
あっ、来たっ♪
一之瀬さんだっ!
「一之瀬さーん、こっちこっちぃーーー!!!」
叫び声に気付いて一之瀬さんが
小走りに駆け寄ってきた。
第一声が「キレイだね、似合ってるよ」って。
もう、そんなこと言われたらテレるじゃん。
ちょっと顔が赤くなっちゃったよ。
「行きましょっ!」
恥ずかしさを隠すために
一之瀬さんの腕を掴んで公園の中に入って行った。
うわぁ~懐かしい。
金魚すくいは小さいころにパパと一緒にやったんだ。
そんな懐かしい思いで見ていたら
一之瀬さんが「やってみる?」って言うの。
だから「うん!」って言って久々に挑戦!
楽しいなぁ~と、ふと横を見ると
一之瀬さんが・・・・
なんだか、ソワソワしていたんだ。
【10話】
サクラ公園での夏祭りの途中で一之瀬さんの様子が
ちょっと変だったの。
どうしたのかなぁ?と思った時に
一之瀬さんが「お腹すいたね・・・」って。
それでソワソワしてたのかな?
「ミズホちゃん何が食べたい?」って聞かれたから
「じゃがバタ」って言ったら、一之瀬さん笑ったの。
えっ?と思って「なんで笑ったんですか?」って聞いたら
「ミズホちゃん、じゃがバタ好きそう・・・」って
笑いを堪えながら言ってたよ。
「それって、芋ねぇーちゃんってことですかぁ~?」
なんか2人して爆笑。
で、急にまた真剣な顔つきになるから
小さいころにサクラ公園に来たことを
思い出してるのかな?って思ってたんだ。
その瞬間、一之瀬さんから
プレゼントをもらったの。
差し出されたプレゼントは・・・
包装紙を見て気付いたんだ。
これ、私が一緒に買いに行ったものだ。
「えっ?これを私に?」
だって、このネックレスは
一之瀬さんの彼女さんに
プレゼントするものだと思ってたから。
でも、すぐにピンと来たの。
私、一之瀬さんにパーカーをプレゼントしたんだ!
と思ってね。
「たいしたパーカーじゃないのに、ありがとうございます」
パーカーのお礼にプレゼントしてくれるなんて
一之瀬さんって本当に律儀な人なんだなぁ~と思ったよ。
一之瀬さんにネックレスを付けてもらって
「どうですか?」って言ったんだけど
「えっ?あっ、う、うん、似合ってる、よ」だって。
なんだか、どもっちゃってさ。
似合ってなかったのかな?
でも、嬉しいなぁ~。
このネックレス大切にするね!
一之瀬さん、ありがとう。
【11話】
何よりも嬉しかったのは
やっぱりモデルの仕事に復帰できたこと。
私の夢はバノベン。
もちろんMOCOCOブランドが売れたのは
嬉しいことだけど、夢は叶えたいの。
だから、夢は叶うまで追いかけたいのね。
オクトプロダクションの事務所で
ビックリしたんだ。
それは・・・
一之瀬さんの彼女さんが
私の代わりにモデルの仕事をしてくれてたんだって。
柊さんに聞いて一之瀬さんの彼女さんに会った。
名前は麻耶さん。
レストランで見かけたときも思ったけど
どっかで見たことがあるような・・・。
それがね、思い出せなくって。
一之瀬さんの時もそうだったけど
以前会ったことのある記憶。
うまく言えないんだけど
勘違いではなく、確実な記憶。
「カエデちゃーーーーん!」
カエデちゃんを誘って
今日はスパゲッティーを食べに行った。
「カエデちゃん!麻耶さんって・・・」
「うそぉーーーー?」
カエデちゃんの声が店内に響いた。
私の代わりにモデルの仕事をしてくれていた麻耶さん。
カエデちゃんも、一之瀬さんの彼女ってことは
気付かなかったみたい。
「言われてみれば・・・そうだね」
カエデちゃんは麻耶さんと
あまり話してないみたい。
お互いにスケジュールが合わなくて
事務所で顔を合わせることも少ないとか・・・。
【12話】
「あなたがカエデさんね!」
「はじめまして。カエデです。宜しくお願いします。」
麻耶さんに挨拶した。
ミズホちゃんの代わりのモデルさんとして
急遽、仕事を受けてくれた人みたい。
すごくキレイな人だけど・・・
なんとなくだけど・・・
何か胸騒ぎがする。
ある日、麻耶さんが休憩室のソファーに座ってたの。
「お疲れ様です!」って挨拶をしたんだけど
携帯電話で誰かと話をしてたんだ。
「ユキが・・・だから・・・じゃないの?」
もちろん聞き耳を立てたわけじゃないから
所々しか聞こえなかったけど
誰かと口論してるような感じだった。
いつも明るく挨拶する麻耶さん。
でも電話している時は
ものすごく顔がこわばって見えるんだ。
麻耶さんに話しかけられたんだ。
「ミズホさんって彼氏いるのかしら?」って
聞かれたの。
ミズホちゃんに彼氏はいないと思うんだけど
「どうですかね?知らないです」って言っちゃった。
そしたら麻耶さん
「ふぅ~ん、そうなのね・・・」って。
ミズホちゃんに誰かを紹介するつもりなのかな?
麻耶さんとのスケジュールが合わず
それからは麻耶さんとは事務所で会うことが
少なくなった。
【13話】
「ミズホちゃん!!!」
ミズホちゃんが復帰してくれて
本当に本当に嬉しくて涙が止まらなかった。
ずっと戻ってくるのを待ってたんだ。
オクティーで一緒に撮った記念の写真を
毎日毎日眺めて、神様に復帰を祈ってた。
この日が来るのを待ってたの。
神様、ありがとう!
ミズホちゃんが戻ってきてから
オクトプロダクションも一気に明るくなった。
やっぱりミズホちゃんの笑顔はみんなを元気にするね。
ミズホちゃんからお誘いを受けて
スパゲッティーを食べに行くことにしたの。
そこでさ、ビックリすることがあったんだ。
麻耶さんが一之瀬さんの彼女だって
ミズホちゃんから聞いて
ビックリして大きな声出しちゃった。
言われてみたら・・・
ミズホちゃんとカフェに行ったときに
一之瀬さんと一緒にいた人・・・
あの人、麻耶さんだったわ!
スパゲッティーを食べ終わってから
店を出て、駅前の小さな雑貨屋さんに寄ったの。
ミズホちゃんの復帰祝いにって思って
小さな犬のぬいぐるみをプレゼントしたんだ。
ミズホちゃん、小さいころに犬を飼ってたみたいで
もうずいぶん前に亡くなってさ
その犬の写真をいつも手帳に挟んでるんだ。
きっと大好きな犬だったんだろうね。
写真で見た犬に似てるぬいぐるみをプレゼントしたら
ものすごい喜んでくれたよ。
笑顔を見ると嬉しいね。
【14話】
交差点の角にある小さなカフェ。
近くにはモデル事務所があり
モデルさんが多く訪れる、この店。
あの日・・・
「いらっしゃいませ~」
私は15年ここのカフェのオーナーである。
何人ものモデルさんを見て来ているが
この日来店したモデルさん達は
光り輝く宝石のようだった。
「こちらの席へどうぞ」
そう声を掛けると、2人の若いモデルさんは
ほほえみながら席についた。
注文はアイスロイヤルミルクティー2つ。
「お待たせしました」
談笑しながら話す2人の前に
グラスを置いた。
きっと、この子達は大物になるな・・・。
そんな直感がした。
それから何日かして
その子達が再び来店してきた。
この前のモデルさん・・・。
一人の手には雑誌が握られていた。
どうやら興奮しているようだ。
その子が初めて雑誌の表紙を飾ったらしい。
ものすごく喜んでいた。
そして雑誌の表紙を飾った子を目の前に
自分のことのように一緒に喜んでいる子。
間違いなく、この2人はトップモデルになるだろう。
人にはオーラがある。
それは直接見えないものだけれど
見る人にとって、心で感じるものなのである。
溢れんばかりの笑顔が
とっても印象的だったのを覚えている。
【15話】
一之瀬さんと一緒に仕事をして
とっても楽しかったの。
時には冗談言ったり、遅くまで企画したり。
時間が経つのがすごく早く感じて
あっと言う間に遅い時間になっちゃって。
「ミズホちゃん、遅いから駅まで送るよ!」
一之瀬さんの心遣いに
いつも温かい気持ちにさせられていたんだ。
気が付いたの。
一之瀬さんのことが好きになってる自分に。
好きな気持ちがどんどん大きくなっている。
でも麻耶さんがいるから・・・
そう思うと
ものすごく複雑な想いだった。
家に帰ってから
ずっと考えてたんだ。
考えれば考えるほど
一之瀬さんのことが気になって
気になればなるほど
心が張り裂けそうになっていく。
一之瀬さんの幸せを願うからこそ
麻耶さんとの関係は壊したくない。
切なくて、どうしようもなくて
ひたすら自分の気持ちを手紙に記した。
でも、この手紙はね・・・
渡さないの。










